• Keîta Chida

第3章、モーツァルト:ピアノソナタKV333〜アシンメトリと孤独〜

最終更新: 2019年2月11日

 「桐一葉 落ちて天下の秋を知る」

坪内逍遥の歌舞伎、「桐一葉」の名台詞である。桐は豊臣の家紋、そして主人公片桐且元の「桐」である。豊臣の行く末を憂いながら、大坂城を追われる且元が詠んだとされる句であって、このブログとは何の関係もない。

が、こうしてブログを書きながら、今ふと思い浮かんだ。滅び行く「桐」とモーツァルトに何か通じるものを感じたのかも知れない。


さて

主題の確保、である。


 普通、主題の確保は主調で行われる。「確保」などと仰々しい日本語を使うので話が見えにくいが、要するに主題がどのようなものかはっきり確立する場所である。

主題が「勧進帳」なら弁慶、義経で十分わかるから「確保」はいらない。しかし全く知らないドラマに取り敢えず小栗旬が出てきたとして、それだけでは一体彼が何を演じるのかわからない、わからないから第一話ではっきり説明する。いわばこれが「主題の確保」である。

 けれどもモーツァルトはこのソナタの確保を属調で行う。これは危険を伴う。スーツを着て登場した小栗旬が、次の場面でナースに着替えて登場したら、カオス、である。そのドラマ、中々にトリッキーな展開であろうこと請け負いである。

 それぐらい際どいラインをモーツァルトは攻めてくる。涼しい顔をして結構なことをやってくれる。悔しい事といえば、そこに全く違和感が無い事である。


 さてここの確保であるが、第1章で述べた3つの動機の内2つ、順次下降の6度とシンコペーションリズム動機だけで構成されている。ある素材を無駄なく使う、料理の基本である。ファッションの基本である。ある素材を変化させて使うから新鮮味と統一性が保たれる。

 フランスに渡った当初、今だから告白するが、毎日ハイドシェックのおさがりを着ていた。理由は簡単である、頼むからお前のファッションセンスで近所を闊歩しないでほしいという事だ。

 巨匠にも体面、体裁、面目があることを知った。

云く「ファッションの基本は三色に抑えること。初対面の相手が黒のジャケットに青いジーンズ、ピンクのシャツに黄色のコートを羽織っていたら友人になるのはよした方がいい」今思えば名言である。


 もう1つこの確保で重要なことがある。出てくる和声が全て転回形であるということだ。殊に一貫して主和音Ⅰは第一転回形である。「ウィーン古典派の6」と呼ばれるそれだ。

 基本形と違い非常に柔和でふわっとした響きである。第二転回になると低音4度の不安定さ故もはや単独では使えない。つまり主和音Ⅰの第一転回は単独で成立し得るギリギリの安定感なのである。

 その儚い和音を惜しげも無く使い続ける、ここに至って完全にモーツァルトサウンドである。極めて儚く触れば消えて無くなりそうな美しさ。世の中の真実は想像しているより往往にして脆く、儚い。


 さて推移部である。5小節、アシンメトリーである。

たった5小節で何が出来るか、と問うと、彼は出来ると答える。楽譜をよく見ていただきたい。5小節に渡ってずっとある音が鳴らされ続ける。ドの音ある。ドの音とはⅤであり、Ⅴとはドミナントである。

 ドミナントが5小節に渡り保続され続けることで嫌が応にもトニックへの解決の欲求が高まる。「空腹は最高の調味料」、そうすることで次に来る第二主題がより引き立つ。そこにあの第二主題である。

まこと心憎い構成である。




次回はいよいよ第二主題である。モーツァルトの素晴らしさに共感してもらおうと書き始めたブログだが、なんだか手品師の手の内を横で洗いざらい説明している子供のようで、一抹の罪悪感を覚え始めた。

しかし、第一手の内が知れたところで、真似できる代物でもない。天才も故人であることをいいことにもう少し見て行こうと思う。

千田

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